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名古屋高等裁判所 昭和58年(行コ)11号 判決 1984年11月13日

控訴人

名古屋市緑区長

渡邊邦夫

右訴訟代理人

鈴木匡

大場民男

被控訴人

松本信恵

右訴訟代理人

杉山忠三

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一被控訴人は、昭和四九年三月二一日、金一七四六万円で本件土地の共有持分一〇分の一を取得したこと、控訴人は、昭和五五年四月一五日、法五八五条一項及び名古屋市市税条例七八条の二により本件土地の共有者である被控訴人に対して、昭和五二年度から同五四年度までの各年度分の本件土地の特別土地保有税を、昭和五二年度分金二三万九一二〇円、昭和五三年度分金二三万八〇八〇円、昭和五四年度分金二三万六三四〇円とする本件各更生ママ処分をしたこと並びに被控訴人は、昭和五五年六月一二日、本件各更生ママ処分について名古屋市長に対し審査請求の申立をしたが、同市長は、昭和五七年三月一〇日、右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同裁決書は同月一一日被控訴人に送達されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二被控訴人は、共有物である土地については、各共有者の持分の割合に応ずる地積により法五九五条所定の基準面積を判定すべきであるにもかかわらず、前記のとおり本件土地の共有者である被控訴人に対し、本件土地全体の面積を基準として特別土地保有税を賦課した本件各更正処分は違法である旨主張する。

そこで検討するに、

(1) 共有は数人が共同して一つの所有権を有する状態であり、各共有者はそれぞれ物の全部について一個独立の所有権を有するけれども、客体が単一であることから他の共有者の同一の権利によつて共有物の使用、収益及び処分は制約を受けるのであり、右共有物が分割される場合には、共有者相互間において共有物の各部分につきその有する持分の交換又は売買が行なわれ(最高裁昭和四二年八月二五日第二小法廷判決・民集二一巻七号一七二九頁参照)、その結果、各自は分割によつて取得した部分について完全な単独所有権を取得するに至る。このような共有の法律的構成からすれば、共有物の分割前と分割後とでは、各自の有する権利はその法的性格において相違があるのみならず、その経済的価値においても必ずしも前後同一であるとは認め難いというべきであり、右経済的価値の異動は、協議による分割にあつては分割の割合が必ずしも共有者の持分に相応することを要しないとされる(大審院昭和一〇年九月一四日決定・民集一四巻一七号一六一七頁参照)ことからも、容易に理解しうるところである。したがつて、この点に関する被控訴人の主張は採用することができない。

(二)  特別土地保有税は、国税における土地譲渡益に対する重課制度(租税特別措置法六三条)と相互に補完しながら、土地保有に伴う管理費用の増大を通じて土地の投機的取得を抑制し、地価の安定を図るとともに、保有土地の供給の促進に資することを目的とした政策税制であつて、同じ保有税ではあつても固定資産税のような一般税制とはその性格を異にするものであり、また、固定資産税とは異なり「所有」という要件のみならず、土地の「取得」をもその要件として併せ有している。しかしながら、①特別土地保有税も、土地そのものの持つ価値に着目し、その資産を保有することに税負担力を見出して課する物税である点では固定資産税と基本的には同一であり、そして、法五九五条は特別土地保有税の免税点について、市町村は「同一の者について」当該市町村の区域(東京都の特別区及び指定都市にあつては当該特別区又は区の区域)内においてその者が所有する又は取得した土地の面積を基準としてこれを定め、一方、法三五一条は固定資産税の免税点について、市町村は「同一の者について」当該市町村の区域内におけるその者の所有に係る土地、家屋又は償却資産について課税標準となるべき額を基準としてこれを定めている。②これに対して、不動産の「取得」を要件としている不動産取得税は、不動産の移転又は原始取得の事実自体を捉えて課税するものであつて、これは不動産の取得という行為には一般的にその背後に税負担力があるものと推認されることから、このような担税力に着目して課するいわゆる流通税に属するものであり、その課税標準は不動産を取得した時における当該不動産の価格とされ(法七三条の一三第一項)、また、免税点についても、前記法五九五条、三五一条のごとく「同一の者について」という文言を掲げることなく、右課税標準となるべき額を基準としてこれを定めている(法七三条の一五の二)。以上①及び②にみられるような税負担力の所在、法文の体裁等に鑑みれば、特別土地保有税及び固定資産税は、不動産取得税と異なり、その課税にあたつて土地家屋又は償却資産という物的要件のみを考慮し、したがつて、これらを保有する形態が単独所有か、あるいは他人との共有かというような人的要件は原則として斟酌せず、専ら保有している土地等の全体についての課税が問われるものと解すべきであり、そうであれば、法五九五条、三五一条にいわゆる「同一の者」とは、土地等を所有し又は取得した主体をいい、共有の土地についていえば、当該土地の共有者全員(集合体)をもつてここにいう「同一の者」にあたるというべきである。

(三)  地方税法施行令五四条の三六第一項は、共有物の共有者の一人が他に土地を取得した、又は所有する場合の基準面積の判定について「当該共有物である土地のうちその者の持分の割合に応ずるものを取得した、又は所有するものとみなす。」と定めている。しかして、(一)、(二)に説示したところに照せば、このように持分面積によるべき旨のみなし規定を設けたのは、元来、前記法五九五条が共有土地については当該共有地全体の面積をもつて基準面積とすることを前提とし、これを区分してその者に係る免税点を判定するごときことは予定していないことから、かような擬制を定める必要が生じたものと解するのが相当であり、そして他方、法五八五条四項は親族、同族会社など特殊の関係にある者(以下「特殊関係者」という。)が取得し又は所有する土地について、一定の特別な事情がある場合には、当該土地を取得し又は所有する者とこれらの者と特殊な関係にある者(以下「特殊関係者を有する者」という。)との共有物とみなす旨を定め、さらに、地方税法施行令五四条の三六第二項は、右法五八五条四項の規定によりみなし共有物とされた土地のみなし共有者である特殊関係者を有する者又は特殊関係者の一人が単独で他に土地を取得し又は所有する場合には、当該共有物とみなされる土地を単独で取得した、又は所有するものとみなす旨を定め、もつて前示第一項との間に差異を設けているのは、右法五八五条四項、地方税法施行令五四条の三六第二項にうたわれているような特殊な人的関係の存する場合には、一団の土地を意図的に分割して取得し、それぞれの分割土地をいずれも免税点未満とするような租税回避行為を招く可能性の自ら大きいことが念慮されたことによるものと解すべきである。したがって、地方税法施行令五四条の三六第一項、第二項の各規定に依拠して、共有に係る土地の基準面積は共有持分によりこれを判定すべきものとする控訴人の主張もまた採用することができない。

(四) なお、免税点の制度は、一般的には零細な税負担の排除と徴税の合理化という、いわゆる少額不追求の観点から設けられているものであるが、特別土地保有税においては、これが前述のような政策税制として設けられているものであることから、投機の対象となりうるような一定規模以上の土地のみをその課税対象とすることとして、法五九五条は免税点とされる基準面積を相当高い水準に定めている。したがつて、共有に係る土地について、各共有者はその持分に応じた右土地の資産価値を把握しているにすぎないとして特別土地保有税の免税点となる基準面積の判定を持分面積によるものと解するときは、一面において、多額の資金を要せずに投機的動機で土地を取得する傾向を助長することになるとともに、他面、単独で土地を取得すれば課税されるが、他人と共有すれば容易に課税を免れ、かつ、値上りを待つために土地は留保されるという不当な結果を容認することになり、ひいて、同税を設けた趣旨に反する事態を招きかねない、といいうる。

してみれば、被控訴人の主張はいずれも採りえないというべきである。

三以上の次第で、控訴人が本件各更正処分を行なうについて本件土地全体の面積により基準面積を判定したことは相当であり、そして、<証拠>により控訴人主張の1項(二)の事実を認めることができるから、控訴人が被控訴人に対してなした本件各更正処分には被控訴人主張の違法はなく、その取り消しを求める被控訴人の本訴請求は失当として排斥を免れない。

よつて、被控訴人の本訴請求は理由がないから、これを認容した原判決を取り消して右請求を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(中田四郎 名越昭彦 三宅俊一郎)

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